読書感想:『Mika in Real Life』
いつもファンタジーや推理小説ばかり選びがちなので、
たまには全然違うジャンルを、
と思って選んでみました。
フィクションではありますが、現代に生きるひとりの女性の人生について書かれたお話です。
出版は2022年8月。
今年の夏に発売になったばかりの本です。
『Mika in Real Life』Emiko Jean 作
新刊本ですから、今回は特にネタバレには気をつけたいところ。
Amazonなどのあらすじ欄に載っている範囲で書こうと思っていますが、
それよりもほんのり登場人物の設定などには触れるかもしれません。
でも決定的なネタバレななしです。
ただこの本、トリガーワーニング(コンテントワーニング)が必要だと思うのです。
(トリガーワーニングとは、不快な感情や記憶を思い起こす可能性があるものや事に対する警告。)
その部分がネタバレになってしまうので、トリガーワーニングはこの記事の一番最後に載せておきます。
さてこの本、
前半はとても興味深く読み進めました。
主人公のミカは35歳。
恋人と別れたばかりで、職も突然失った。
自分の人生をどうしたらいいのか考えていたら、
養子に出した我が子から初めて、唐突に電話がかかってきた。
というところから話はスタート。
ミカは日系アメリカ人。
両親は共に日本人で、ミカが幼稚園の頃に家族3人でアメリカへ移住してきました。
祖国を離れ、アメリカに馴染むのに苦労した母親。
その母親はちょっと「毒親」気質。
ミカは常に母親から、
「理想の娘」
「アメリカではなく、日本の伝統を受け継ぐ娘」
というプレッシャーを押し付けられているように感じています。
そしてその期待に応えられず、母親はいつも自分に失望している、とも。
大学では、母親の反対を押し切って、
ずっと好きだった絵を勉強し始めます。
そしてそんな時思いがけない妊娠。
未婚のまま出産することを決めますが、
経済的な理由や年齢的にもまだ親になる精神的余裕がないこと、
また自分の両親からのサポートを得られない状況であること、
など考え、子は養子に出します。
本当は自分で育てたかった気持ちを抑え、
その子が一番いい環境で育てますようにと願いを込めて。
時は流れて16年。
16歳になったその子供、ペニーからミカの元へ電話がかかってくることで物語は始まります。
前半は、初めて会う我が子ペニーに失望されたくなくて
奮闘するミカの様子が主に描かれます。
同時に少しずつ、ミカの過去についても紐解かれていきます。
ミカの母親、ヒロミは毒親気質であると先に書きましたが…
自分の理想を押し付け続けたり、
妊娠したティーンの娘に寄り添わない様子は毒親と言って良いでしょう。
これは本当にミカに同情します。
一緒に居てくれる親友がいてくれてよかった。
ただ、このヒロミも多分苦労はしている。
自分の意思に反してアメリカへ渡り、相当大変な思いをしたのではないかな。
突然いきなり異国で初めての子育て、
頼れる人もおらず
自分の存在意義は家事と育児だけ…となって
ヒロミ自身もずっとキャパオーバーの状態だったのかもしれないな、と。
そしてこのヒロミ、日本にいた頃結婚前は舞妓さんだったそう。
多分ですが…芸妓さんのことですよね?
舞妓さんは15歳から20歳、その間に修行をしてハタチ超えたら芸妓になるというのが私の認識ですが、例外もあるのかな?
もし実際舞妓さんだったとしたら、ヒロミ自身も10代で結婚出産していることになります。
でももしそうだったら、物語の中で言及がある気がする。
ヒロミもミカと同じように10代で出産したという繋がりができるわけですから。
早くに結婚出産したというような記述はなかったはずなので、
成人してからだったと考えるのが妥当な気がします。
となるとヒロミは芸妓だったという設定がふさわしいのではないかな〜?
と作中ずっと気になっておりました。
舞妓ってワードが何度も登場するので。
まぁ舞妓にしろ芸妓にしろ、世間の話を聞く限りではなかなかに特殊な世界ですよね。
15歳で親元を離れ稽古漬けの毎日。
未成年でもお酒の席につくことができる治外法権のような世界。
そのためにヒロミ自身の価値観が歪んでいてもおかしくはないと思います。
とはいえ、そう言った部分には全く触れていないんですよね。
舞妓をしていて着物や踊りに対して思いがあった、程度の触れ方。
その特殊な設定をもう少し掘り下げないのなら、
わざわざ舞妓(もとい多分芸妓)とせず、
日本舞踊を習っていた等の設定でもよかったんじゃないかな〜なんて思うのです。
ヒロミの設定はともかく、
親子のこじれ、
移民2世としてのアイデンティティ、
出産直後に子を養子に出さなければいけなかった心境など、
その辺りの章はとても興味深く読みました。
涙が出た部分も前半はありました。
中盤からは嘘に嘘を重ねていくミカの姿が悪い意味で滑稽に見えてしまい、
ヤキモキすることが増え…
後半に入った頃から、ロマンス小説でも読んでる?と勘違いしそうになる章がちらほら。
私はあまり恋愛ものに興味がなくて。
小説でも映画でも。
もし恋愛ものなら、
いっそ時代劇とかファンタジーが舞台の方が都合良い展開も受け入れやすくて好きかな。
ラストは未来に希望がある感じで終わるので、そこはよかったですが…
最後まで恋愛面に関してはもやもやで終わりました。
この作者さん、普段はティーン向けの小説が多いそうで、この展開もなんとなく納得。
恋愛話の詳細(相手の魅力的な部分とかなんとか)にすごいページを割くのに、
主人公が自分自身の力で再生するという一番大事な場面があっさりしすぎな気がしたかなぁ。
という、スタートは好感触だったのに、
最後の方で「うーん」となってしまった作品。
私が親じゃないから、
というのもあるかもしれません。
もしも私に子供がいたなら、もやっとする恋愛面の話が霞むくらい
親と子の話の部分に惹きつけられたかもしれない。
「親とはなんなのか。」
このテーマについてはとてもよく掘り下げられていたと思います。
私が一番モヤっとした恋愛面のストーリー。
35歳の大人の女性の人生について描かれているんですから、
恋愛やパートナーについて書かれることは当然ですし、それ自体はもちろん問題ないんです。
ただな〜相手が私的には本当になし、でした。
話の比重が恋愛に傾くにつれて、
「ペニーのことが何よりも大事」
「常にペニーが安心して戻ってこれる場所でありたい」
というミカの台詞が薄っぺらく感じてしまうような相手だったんです。
ミカの恋愛を成就させるために、
誰よりもペニーが精神的に大人になって色々なことを受け入れなければならなかった、
というところにあまり納得がいきませんでした。
いっそ、少女漫画ならそれなりに楽しめた展開と設定かもしれないけど…
でもこの本、ネットで見る分にはすごく評価が高いんです。
読者層(レビュー層)は成人女性が大部分だと思うのですが、
世の女性的にはこの恋愛観はOKってことなのでしょうか。
ただ、恋愛話において自分の価値観が割と堅く、
寛容性があまりないのは自覚しています。
それもあってか恋愛ものを楽しむのに向いてないみたいです、私。
恋愛話はもう少しサクッと進めて
ミカが自分の力で前へ向かおうとするところを深く書いて欲しかったな。
自らの価値を他者からの評価で図ろうとする承認欲求ではなく、
自分で自分を認めてあげる。
痛みも恐怖も受け止めて、それでも生きていくことが
人生を謳歌するための方法と気づいていく過程。
そこが1〜2章しかなかったのが残念(ちなみに全部で35章ありました。)
というわけで、恋愛小説苦手な人は後半読み飛ばしたい部分があるかも。
我が子を養子に出したミカの心境、
親と子のわだかまり、
移民2世としてのアイデンティティ
などの部分は前述通り、とても興味を持って読みました。
多分…
私のこれまでの人生経験の中で、
ミカに共感できる部分が少なかったのかもしれないです。
何か一つでももっと大きく感情移入したり、共感できたりする部分があったら、全く感じ方が違っていたのかもしれません。
自分の好みぴったりの小説に出会うのってもちろん素晴らしいけど、
こんな風にそこまで自分の好みではない話に出会うことも読書の一部。
なんで自分はこんなふうに思うんだろう。
どうしてこのキャラクターはこんな言動をするんだろう。
もしかして自分の視野が狭くて受け止めきれないだけなのだろうか。
と、そこから色々自分なりに考えることってとても大切だと思うので。
普段あまり読まないジャンルに挑戦してみたのもたまにはよかった。
まだまだ英語を勉強中の身としては、現代的、日常的な文章に触れられたのもよかったと思います。
Nov 4, 2022
これより下に、
ネタバレを含むトリガーワーニングの表記を載せてあります。
トリガーワーニング:
性的暴力、死別、養子縁組、10代での妊娠出産