読書感想:『星を継ぐもの』
最近読んだものの中で一番面白かった!
難しいけど面白い、というのがまず一番の率直な感想。
『星を継ぐもの』はハードSF。(SF作品の中でも科学性が強い作品、既知の科学技術・知識に裏づけられた理論的な描写やアイディアが軸となる作品。)
真紅の宇宙服を着た遺体が月面で発見された。
調査の結果、チャーリーと名付けられたこの遺体はなんと死後5万年も経過していた。
地球がまだ石器時代であった5万年前。
時を同じくして、すでに月面まで到達していたチャーリーは一体何者なのか。
どこからやってきたのか。
現生人類との繋がりは?
というのがあらすじ。
チャーリーは何者なのか。どこから来たのか。
それを突き止めるべく、世界中のトップサイエンティスト達が集まって謎を解き明かすべく奮闘します。
間違いなくSF作品ではありますが、謎解きミステリー要素もあるのが尚更面白い。
私はまるっきり文系なので理数系のことは全然わかりませんが、
科学とは仮説と検証を繰り返し行う学問だと聞いたことがあります。
先入観を捨て、「当たり前のこと」にさえ疑問を投げかけて地道に検証していく。
この本に登場する科学者たちもまさにその通り。
そこに深い人間ストーリーなどが絡んでくるというわけではなく、
特に前半は科学的な要素たっぷりで、割と淡々と科学者達のやりとりが行われます。
昔から自他共に認める理数不得意な私は、
「ちょっと難しすぎたかな?」
と正直思いました。
前半は特に物理など計算を使う話が多くて…
でも、話の流れが掴める程度になんとなく分かればいいかなと開き直って読み進めてみました。
もちろん、科学の知識があれば解像度が上がってもっと楽しめただろうなぁとちょっと悔しくも思います。
(月の表と裏の話とか、火星と木星の間の小惑星帯の話なども、恥ずかしながら全然知らなかったので少し調べつつ読みました。)
ちょうど話が半分を過ぎたあたりから数字を使った話が減り、
文系な私でもぐんと分かりやすくなった印象。
そこからは読むスピードも上がりました。
だから、
宇宙に浪漫を感じる人
科学者に憧れがある人
地球外生命体に興味ある人
ヒトの祖先(ミッシングリンク)が気になる人
などなど、その手の話題に興味が湧く人ならば理数科目が苦手でも楽しめると思います!
数字にアレルギーでもあるのかな、ってくらい数学が苦手な私でもちゃんと最後まで読めましたから。
読んでいて本当にワクワクしたし、最後までこんなに興奮の嵐だった本は久しぶり。
さて、このお話に登場する「現代」は2027年から2028年辺り。
私たちにとってはあと数年で到達する未来です。
本が出版となったのは1977年。(日本語訳版は1980年)
70年代から筆者が見た50年先の未来は、(私たちにとって)ちょっとレトロな近未来。
現実世界以上に科学技術は進んでおり、人々は月だけではなくさらに遠くの宇宙へ向かって飛び立っています。
そのため民族や国家、党派、信教などによる分裂は影を潜め、
地球全体が巨大な社会として融和していった世界。
この部分が私たちの現実社会とは程遠い…
科学技術の進歩は確かに目覚ましいですが、平和に関してはまだまだ。
いつか本当に国家の垣根がなくなり、土地や資源や宗教をめぐる争いが絶え、地球規模で一つのまとまりとなる日は来るのでしょうか。
現実の2023年からは想像するのが難しいほど和平が進んだ物語の世界。
その割に登場する女性キャラクターは美人秘書のみ、という70年代らしい部分もありましたけれど。
前述通り、心情を深く抉るような人間ドラマは登場しませんでしたが、
最初は距離を取っていた原子物理学者ヴィクター・ハントと、生物学者クリスチャン・ダンチェッカーが次第に互いを認め、それぞれの能力を寄せ合って解決にあたるようになる変化は読んでいて面白かったです。
物語冒頭は多くの読者もハント目線で、
「ダンチェッカーはいけすかない人だ」
と思ってしまうと思うのですが、話が進むにつれ、
「ダンチェッカーすごいなぁ」
と思うようになる不思議。
このハントとダンチェッカーの関係は、
「互いに手を取り協力して問題を乗り越えるのか、それとも互いを攻撃しあった結果共に自滅の道を歩むのか」
という、この本のテーマの一つを反映しているのかもしれません。
そして5万年前に書かれたチャーリーの日記の部分は鬼気迫るものがありました。
それまでの科学的な検証や計算の話から一転し、当事者から語られる当時の様子は鮮やかで緊張感たっぷり。
また、ハントが夜空に見上げた木星。
木星の衛星ガニメデから見上げたそれは、地球から見た月の5倍の大きさだったとありますが、その描写がとても美しくお見事でした。
チャーリーの種族も、そして私たち現生人類も、
生き残るということに対して貪欲なのだと本の中で語られます。
後へ退くことはなく、粘り強い抵抗力を持って生命を脅かすものと戦う。
でもそれは時に攻撃性と変わり血塗られた歴史を作ってしまうことにもつながります。
私たち地球人はこの先どのような道を辿るのでしょうか。
例えば、核戦争が始まってしまったら人類には自滅の道しか残されていないのかもしれません。
そのようなことが起きなくても、地球の資源を使い尽くしてしまう未来はそう遠くないかもしれません。
私たちは和平に解決を見出し、
互いに手を取り外からの脅威に一緒に立ち向かうことはできるのでしょうか。
世界の終末的なお話の映画や本を読むたび思うのですが、
私には強い「生存本能」はなさそうだなぁ…
気の休まない恐ろしい世界から早く解放されたいと思ってしまいそう。
娯楽も癒しもなく、ただ生き残るためだけに過ごす日々。
それでも私はまだなお生きたいと思えるのかな?とつい考えてしまいます。
自分一人だけならすぐに諦めてしまいそうだけれど、
守りたい存在がいて、もう一度会いたい人がいるなら、こんな私でも生き延びるためにサバイバルしていけるのだろうか?
前回も書きましたが、約40年前に翻訳されたものとあって、
少し日本語が古く感じる部分はあると思います。
「昭和・平成初期に翻訳された本」を読み慣れていない人には読みにくく感じる部分もあるかもしれません。
でも、そんな部分からも「言葉は時代と共に変わるもの」ということを体感しながら楽しめるといいですよね。
『星を継ぐもの』は『巨人たちの星シリーズ』の第1作目。
シリーズは全部で5作あるようですが、一応3作目まで読めば話としてはすっきり完結するようです。(5作目は末訳。)
『星を継ぐもの』も一応それなりに諸々解決して気持ちよく読み終えることはできますが、まだまだ解明されていない部分もたくさん。
『星を継ぐもの』がすごく面白かったので、私は3作目まで読もうと思っています!
Jan 30, 2023