読書感想:『ガニメデの優しい巨人』
皆さんこんにちは。
あっという間に2月も終わりですね。
カナダ(の私が住む地方)ではまだ雪も積もっているし、氷点下の寒い時期はまだしばらく続きます。ですが今月に入ってからは、日に日に日照時間が長くなっていくのを体感できるようになりました。
真冬の間は本当に日が短いので、太陽が出ている時間が長くなると、気温は低くとも気分が明るくなる気がします。
私は暑がりですので、基本的には寒い季節の方が好き。
雪かきは大変ですが、雪の美しさも好き。
でも今年の冬は今までになく厳しく感じています。
昨年12月に16歳を迎えた高齢の愛犬が、さまざまな理由で冬の間散歩に出かけることが難しくなってしまって。
晴れて日中ゼロ度を超えるような暖かい日がたまにあるんですが、そんな日を選んで少し外に出るのみ。
雪解けを迎え、ゆっくりとお散歩できる暖かい季節が待ち遠しいです。
さて、今月の本は、
『ガニメデの優しい巨人』ジェイムズ・P・ホーガン作。
先月読んだ『星を継ぐもの』の続編です。
この記事内では、『ガニメデの優しい巨人』の結末に関する決定的なネタバレはありませんが、物語の内容やテーマには触れております。
『星を継ぐもの』に関するネタバレも登場します。
『星を継ぐもの』は近年読んだ本の中で1、2を争う勢いの面白さでしたので、『ガニメデの優しい巨人』を読むのも楽しみにしておりました。
結果から言うと、興奮度はやはり『星を継ぐもの』の方が高かったけれど、今作もとてもよかった!
一番新鮮味のあるシリーズ第1作目が一番面白いというのは、(私にとって)ほぼ常なので想像の範囲でした。
このシリーズはハードSF(既知の科学技術・知識に裏づけられた理論的な描写やアイディアが軸となる作品)なのですが、
第1作目はよりミステリー度が高く
第2作目はよりフィクション要素が多め、
といった感じ。
第1作目は後半ずっと少しずつ紐解かれていく、
「太陽系の過去の出来事」
「人類はどこからきたのか」
に本当に興奮しっぱなしでした。
今作は、前作よりも終始穏やかな雰囲気でしたが、それでも最後には鮮やかな謎解きシーンが用意されていました。
『星を継ぐもの』と『ガニメデの優しい巨人』では一応ハント博士が主人公だと思うんです。
でも物語のシャーロック・ホームズ役はダンチェッカー博士でしょうね。
『星を継ぐもの』ではハントとダンチェッカー二人ともが名探偵役を兼任していた感がありましたが(それでも最後の一番いいところはダンチェッカーが持ってった)、
『ガニメデの優しい巨人』では疑問に対する答えを全て用意できたのはダンチェッカーだけでした。
今作ではハントはむしろ、ジェームズ・ボンドとかインディ・ジョーンズからアクションを引いたような役どころ。(つまり仕事が出来る、モテる男扱い)
今作から急にハント=モテる描写が増えていた気がします。
70〜80年代初頭に出たSF作品ですから、当時は特に男性向けに書かれた本なんでしょう。そういうお話には、男が憧れる男が登場するものなのかも。
そんなこんなで、ハントが通訳的なことを任されたり遊んだりしているうちに、ダンチェッカーが全部綺麗に謎を解いちゃった!という具合。
ダンチェッカー(生物学者)もそうですが、言語学者のマドスン博士、月理学の権威スタインフィールド博士など、さまざまな科学者が登場するのもこのシリーズの見どころ。
『星を継ぐもの』では生物学、言語学はもちろんのこと、物理学に関連する話題が多く理数系科目が苦手な私は少し苦労しました。
『ガニメデの優しい巨人』では数学や物理の割合は減り、生物学や進化論に関する話題が中心。
生物学なら少しは理解しやすいかと思いきや、全然そんなことはなく今回もやっぱり専門的な内容は難しかったです。
でも前回と同じく、それを考慮しても本当に面白かった。
『ガニメデの優しい巨人』というタイトルで既に若干ネタバレしている通り、
「異星人」が出てくるんですがその異星人=ガニメアンが他のSF物にありがちな攻撃性を持った異星人では全くなく。
ちょっと珍しいタイプの「異星人」の描かれ方なのではないかと思います。
またそのガニメアンたちから見た地球人に関する考察もとても興味深いものがありました。
私は
「ヒトは特別な生き物」
という考え方があまり好きではないのですが、
実際ヒトが持つ性質や能力には、他の生物と異なる部分が多いのも事実。
そんな部分に、ガニメアンたちの視線も絡めながら、焦点を当てているのが面白かったです。
それにしても、前作と今作中、
「元々残虐性を持つ人類がそれを克服し、互いの違いによる争いを辞め平和を築けるようになった」
という話が何度も出てくるんです。
物語の舞台は2027〜2030年代。
作品が出版されたのが1970〜1980年代。
出版された70年代から見て50年後の世界は、私たちが生きる「今(2023年)」のほんの先の未来。
作者は、「50年後には今よりももっと垣根のない平和で暮らしやすい世界になっているかもしれない」と願ったのかもしれません。
でも悲しいかな、現実の2023年は物語中の2027年頃とは似ても似つかぬ世界ですね。
どんどん平和とは逆の方向へと加速しているように見えます。
だからこそ、
「人類は攻撃性の強い生物」というくだりが図星過ぎて、
フィクションではありますが、他人事には思えませんでした。
どなたが書いておられたのかわからなくなってしまったのですが、
『ガニメデの優しい巨人』のレビューの中に、
「他のSF作品と違って、作中の異星人とのやりとりがこうも冷静に穏やかに進むのは、人類側の主な登場人物がみな科学者だからなのかも」
という説を見かけまして。
それがとても面白いなと思いました。
感情に支配されるのではなく、多面的に物事を見て冷静に情報を処理し解決へと導く。
そんな科学者の集まりだからこそ、ここまで穏やかな「異星人とのファーストコンタクト」だったのかもしれないと。
奪い合ったり攻撃しあったりするのではなく、互いから学び互いの見識を前進させていく姿勢を持った科学者たちの集まりだったからこそ、実現した平和な異星人とのファーストコンタクト。
前作のレビューでも翻訳が少し古く感じると書いたのですが、今作も同じくでした。
例えば「目方」とか今の若い人ってわかるんでしょうか?
あと個人的には、距離の単位がマイルなどヤード・ポンド法のままだったのが少々分かりにくいな、と。
キロなどメートル法に換算して訳してもらえたらもっと分かりやすかったかな〜と思います。
「宇宙船の全体が何マイルで〜」
「見つかった骨の長さが何フィートで〜」
とあっても、それが一体どのくらいなのかパッと想像できない日本人は多いんじゃないかな?(もちろん私もその一人。)
こういういわゆる「ひと昔」前の翻訳作品を見ると、言葉って本当に変化するものなんだなぁと実感します。
たった50年、されど50年。
もちろん文章の全体的な意味は問題なく通じるのですが、ところどころ今では全く使われない表現や単語が出てくるのが面白いなぁと思います。
このシリーズは全部で5作あるらしいのですが(5作目は日本語未訳)、3作目で一応完結するらしいとのこと。
ですので、私はとりあえず3作目まで読んでみる予定!
第二作目の『ガニメデの優しい巨人』でかなりの謎が解明されましたが、まだまだ気になる部分は残っています。
それがどんな風に扱われているのか、読むのが楽しみ。
Mar 2, 2022