読書感想:『夜は短し歩けよ乙女』
私は夜の町というものに憧れを持っています。
とはいっても、ネオンが妖しく光るお酒好きが集まる歓楽街、ではないんです。
(お酒は飲めないし、音が大きく暗い場所が苦手なので、バーやクラブの類は苦手なのです…)
ここでいう「夜の町」とは読んで字の如し、夜間の町中のこと。
それも寝静まってしんとした住宅街。
身の危険を心配しなくていい世界で、夜の町を思いっきり探索できたらいいのになぁという憧れを昔から持っています。
絵本とか子供向けファンタジーに出てくる、夜の風景といったらいいのかな。
あとはNetflix作品の『リラックマとカオルさん』のような世界観。
悪意に満ちた犯罪とかは全くなさそうな、あの平穏な雰囲気にとても癒されます。
そんな平和な世界で、人通りがない寝静まった街を起こさないよう、そっと行動しつつ。
見上げるとそこには満点の星空。
もしくは星が見えなくとも、ガス灯のようなデザインの街灯が密やかに照らしてくれる歩道。
自分だけが起きているような感覚と共に見慣れたはずの町もまた違って見えて、なんだかひっそりとした高揚感がある夜の冒険。
現実世界ではなかなか出会えないであろう、そんな風景のイメージです。
現実では、明るく人通りの多い場所を防犯対策しつつなるべく急いで歩く、という感じですよね。それも通勤など必要性がある場合のみ。私含め、夜間の独り歩きはしないように心がけている人も多いでしょう。
特に用もないのに夜中一人であちこち散策なんて防犯の面からまずしない(できない)。そんな世界が悲しいと常々思います。
そんな気持ちを普段から抱えているからこそ、
『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦 作(2006年発行)
という題名にとても惹かれました。
とても人気があり、漫画家やアニメ映画化もされている作品です。
前知識なしで題名に惹かれて選んだのですが、結論から言ってしまうと、この本に登場するのは先述したような絵本的な夜の世界観とは全く違うもの。第1章はお酒好きの集まる歓楽街が舞台です。
犯罪的なこともおきますが、それでも現実の世知辛さとはまた少し別の趣。現実の土地が舞台ではあるけれど、思った以上にファンタジー要素が強かったです。
京都を舞台にしているものの、「行って帰ってくるファンタジー」
という説明がとてもしっくり来ました。
「森見節」と言いたくなるような独特の文体で、人によっては合う合わないがありそう。
私は今まで読んだことのない感じが逆にとても面白いなと感じる文章スタイルでした。
特に長すぎることもなく、サクサク読めた一冊。
主役の一人である「黒髪の乙女」がなんというか「男性の描く女性」という感じが強くて、個人的には好感は持てるけど共感は全然できないキャラクターでした。
「黒髪の乙女」が取った行動をもし私の友人がしたとしたら、危ないからやめておけ、と言いたくなるような現実離れした設定だったかなぁと思います。
でもそれは主役の女の子だけじゃなく、登場人物みんな突拍子ないキャラではあったかも。
だからそれを面白いと捉えられるか、共感できなくて「うーん…」となってしまうか、がこの作品を楽しめるかどうかの鍵なのかもしれません。
今まで馴染みがなかった作風だったので、今回読んでみて良かったと思います。
Mar 25, 2024