読書感想:『透明な夜の香り』
ファンタジーものの英文小説が続いていたので、休憩も兼ねていつもとは少し違った趣向のものを。
『透明な夜の香り』千早 茜 (著)2020年出版
「とある調香師のお話」と聞き、
去年から香水に再度興味を持ち始めたこともあり選んでみました。
レビューを見るととても評判良く、渡辺淳一文学賞受賞作品でもあるということで楽しみにしていたのですが…
こういうジャンルは個人的にあまりピンとこないのだった〜。
もちろん素晴らしい作家さん&作品なのだと思います。
こういう世界観や話の紡ぎ方や言葉選びが好きな方がたくさんいるのもわかる。
ただただ私自身のこういった作品に対する解像度の低さゆえ、です。
想像力も関係していると思いますが、一番はおそらく人生経験でしょうね。
こういった作品に題材として取り上げられるような、
曖昧な人間関係
罪や秘密を抱えること
といった経験をしてこなかったんだと思います。
自分なりに人生の紆余曲折はあったと思っているし、歳を重ねるにつれ白黒つけられることばかりではないということも分かってきたつもりですが。
いい意味で普通の人生を歩んできたからこそ、こういう作品への理解を深められないのかもしれません。
今でこそグレーのまま受け入れられることも増えたけれど、若い時はなんでも白黒つけたかったし、名前のつけられない人間関係みたいなものもなかった。
そういう人間なので、こういった作品は終始、
「話の内容や流れは理解できるけど、共感できない」
みたいなことが多いのです。
この本の主人公である一香、
一香の雇い主である天才調香師の朔、
朔の長年の友人、新城、
朔のもとを尋ねる依頼人たち、
みんなそれぞれ、仄暗い思いや秘密を抱えています。
調香師と聞くとイコール香水を作るのが仕事かなと思ってしまいがちですが、
彼の仕事は「香り」そのものを作ること。
ものすごく香りを嗅ぎ分ける能力に長けているため、
香りに支配された人生と言ってもいいと思います。
香りは朔にとっての才能なのかあるいは呪いなのか。
香りや匂いについての知識は半端なく、愛着も興味もあるのだろう。
だけれど、彼自身は楽しく幸せな気分で香りを作っているのではないのだろうなと感じました。
香りの依頼人たちもまた、朔が作る香りを受け取ってもみんなあまり幸せにはならないのですよね。
それゆえ読んでいて、
香水をつけてみたくなった!
ますます香りが好きになった!
とはなりにくいかな、と思います。(ここが私の思い違いだった…天才調香師の作る香りで依頼主たちが笑顔になれるような話だといいな、と勝手に思ってしまっていたので。)
それから。
朔の香りを嗅ぎ分ける能力は警察犬以上、現実離れしているんです。
もちろん、フィクションなのだからそういった設定があってもおかしくないのでしょう。
でも現実の日常を舞台とした小説に、急に非現実的な設定が出てくると混乱してしまうんです。そしてそこから物語に入り込みにくくなってしまう。
私は普段ファンタジーを好むのですが、その理由の一つとして。
最初からファンタジーと銘打ってるものは自動的に分厚い「非現実フィルター」が入るので、突拍子もない設定でも自然に受け入れ易い、という気づきがありました。
私の感性にはピッタリはまらなかった作品ですが、たまにはそういうのを読むのも大事かなと思います。
共感はできなくとも、
世の中にはこう考える人もいるのだろう。
こういう人もいるのだろう。
となんとなく知ることで、少しずつ想像力を養ってくれるのではないかと思います。
今年(2023年)の春には続編『赤い月の香り』も出たそうで、こちらも巷では高評価のようです。
最後に。
この本、コンテント(トリガー)ワーニングが必要だと思います。
(トリガーワーニングとは主に重い題材などを扱う際、不快な感情や記憶を思い起こす可能性があるものや事に対する事前の警告、注意書きのこと。)
日本の小説ってそういうのを確認できる場所ってあるんでしょうか?
英語の小説だとネットで少し検索すればたくさん情報が見つかりますし、本によっては初めに明確に記載があるものもあります。
今作品に関しては、細かく書くとネタバレになりそうなので大まかにしておきますが…
死や暴力に関する記述が多かったです。
直接的な表現はそこまでありませんでしたが、言及される回数は多め。
しかも種類が多岐に渡るので注意が必要だと思います。
Nov 15, 2023