読書感想:『A Master of Djinn』

ハロウィンは今年もなかなかの賑わいでした!

当日は気候も穏やかで、一旦うっすら積もっていた雪も解け、子供達&付添の大人たち・そしてお菓子を配る側にとっても、トリックorトリート日和となりました。

10月が終わってしまうと今年もいよいよ残り少ないのを実感してなんだか寂しいですねぇ。

カナダのサンクスギビングは10月初めに終わってしまいましたが(アメリカは11月後半)、カナダは今月半ばにリメンバランス・デーという戦没者追悼記念日があります。

ショッピングモールや広告上ではクリスマス商戦が始まっていますが、モラル的にはクリスマス一色になるのはリメンバランス・デーが終わってから(まずはそちらに敬意を表してから)、とされています。

我が家もクリスマスの飾り付けを始めるのは12月に入ってから。

短い秋の雰囲気にあともう少しだけ、浸っていたい気分です。


今回の読書感想は、

『A Master of Djinn』という本です。(2021年出版)

作者は P. Djèlí Clark。

作家でもあり、大学の歴史の助教授でもあるそうです。

『A Master of Djinn』は『Dead Djinn Universe』というシリーズの1冊。

 
 

舞台は1912年カイロ。

40年ほど前(1870年前後)に、Al-Jahizという人物が異世界とのポータルを開き、カイロに魔法とDjinn(ジン:アラブ世界における精霊や魔神などの総称。『アラジン』のランプの精が有名)をもたらしました。

それによってカイロにはジンたちによる人智を超えた機械テクノロジーや建築物が造られ、世界でも有数の力を持った現代都市に発展しました。

物語の主人公はFatma(おそらくファトマと訳すのかな?)。若い人間の女性で、Ministry of Alchemy, Enchantments and Supernatural Entities(錬金術・魔法・超自然的な存在に関する省)にお勤めのエージェント。

仕事内容は主に錬金術・魔法・超自然的な事件を調査すること。

Al-Jahizに魅せられた、地位も財力もある英国人を中心としたグループ20人が、変わり果てた姿で発見されるところから物語は始まります。

現場や目撃証言からなんらかの魔法が事件に絡んでいると判断され、エージェントFatmaが解明へと乗り出します。

というのが簡単なあらすじ。

ファンタジー×ミステリーという、私の大好きなジャンルの組み合わせ。

加えて舞台は、ジンたちが造り出す特別な機械テクノロジーによってスチームパンクな様相と化したオルタナティブユニバース(パラレルワールド?)なカイロ。

主人公と準主役2人の計3人はそれぞれ全く性格も見た目も異なる女性たち。しかもみんな賢くて強い。

面白そうすぎやしませんか。

「ファンタジー」というと『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』のような中世ヨーロッパ風な世界観だとか、森の中で動物と暮らすディズニープリンセスな感じを真っ先に想像する人が多いかと思います(私もその一人。)

この作品はそんなファンタジーの王道とは少し違うユニークな世界観を持っているところがまずとても魅力的でした。

もう一つ驚きだったのが、この作品に出てくる主役&準主役の3人の女性がとても素敵だったこと。

といっても、女性としての魅惑的な部分にフォーカスされている訳ではありません。それぞれの人間味が興味深く描かれています。

だから、いい意味で作者が男性であることをつい忘れてしまう。それ位、女性たちの描かれ方が「ステレオタイプな女性像」ではなく、一人一人を人間として捉え描いているのがとても良かったです。

主人公のFatmaはボーイッシュな女性。

最も若くして登用された女性のエージェント(そもそも女性のエージェントがとても数少ない時代)で、とても優秀な調査員でもあります。

エジプト人ではありますが、いつも英国紳士風の質の良いスタイリッシュなスーツで身を包んでいます。3ピーススーツに、差し色を使ったシャツとネクタイ、ボーラーハットにステッキ(おしゃれ用杖)と、頭から爪先まで英国紳士風スタイルをばっちり着こなしています。しかもそのステッキの中には戦闘用の細い剣が仕込まれているという徹底的な格好良さです。

準主役の一人であるSitiはヌビア地方を背景に持つ女性。

背が高く引き締まった体型で恐ろしく運動能力が高いのです。Fatmaとは以前とある事件を通して知り合い、今作でも事件解明のため活躍します。

飄々としていてミステリアスで一見猫っぽさを持ち合わせた人柄ですが、その堂々とした佇まいと強さは猫というよりもライオンのようだ、とFatmaから評されています。

もう一人の準主役は、新人エージェントのHadia。Fatmaと同じくとても賢く優秀。自らFatmaのパートナーエージェントとなることを希望します。

元々一人で調査をすることを好んだFatmaと違い、明るく溌剌としていて人当たりよく可愛らしい印象のHadia。でも実はめちゃくちゃ戦闘能力に長けているというギャップを持っています。

みんな素敵だったけど、私の推しはHadiaかなぁ。

暗くなるようなシーンでも前向きなオーラを放ってくれるようなキャラクターでした。

舞台が1912年のカイロ、

登場する主要な人間キャラクターたちは主にエジプト人かイギリス人、

主役&準主役が男社会で活躍する女性ということもあり、

フェミニズム

コロニアリズム(植民地主義)

人種差別

といったテーマにも触れられています。

でも正面から正論を投げつけるような描かれ方ではなく、登場人物同士の気楽な会話の中にそういった話題が散りばめられているような、受け取りやすい描かれ方だと思いました。

またマーダーミステリーということもあって暴力なども少し登場しますので、事前のコンテント(トリガー)ワーニング確認を推奨します。

作品中の言葉使いなどはかなり現代的なのでその点では読み易い文体だと思います。

アラビア語の感嘆文や挨拶などが登場することと、私には馴染みのない固有名詞も多く、すぐには人名なのか土地名なのそれとも他のものなのかがわからないことが多くて、そういった点ではちょっと難しかったです。

『A Master of Djinn』は『Dead Djinn Universe』シリーズの最新作であり、唯一の長編小説。

それ以前に3冊の短編が出ていますが、『A Master of Djinn』は短編未読の人でも問題なく楽しめるようになっています。

私が購入した電子書籍版には、短編の中の一つ「A Dead Djinn in Cairo」が巻末に収録されていました。

もちろん読んでみましたが、FatmaとSitiの出会いのきっかけとなった事件について知ることができるので面白かったです。

私は普段、本の映像作品化(映画にしろテレビ番組にしろ)をあまり望みません。

原作に忠実に作られる作品が少ない印象なので…

本を先に読んでしまったら、映像化作品の細かい相違点が気になって楽しめない気がするからです。

でもこの作品は映像でも観てみたいな、とちらっと思いました。

スチームパンクのカイロというのを今の技術で映像化するとどうなるのか気になります。

ファンタジー×ミステリーという組み合わせ。

興味深いキャラクターたち。

創造的な世界観。

どれも新鮮で、とても楽しく読みました!

Nov 6, 2023

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