読書感想:『孤独は消せる。』
東京にあるDawnという名のカフェを知ったのは、
確かウェブ記事かなんかがきっかけだったと思います。
AIではなく人によって動かされているロボットである「分身ロボット」。
その分身ロボットはパイロットと呼ばれる従業員の方々が遠隔で操作しながら、注文を受けてくれたり配膳や接客をしてくれます。
なぜ分身(アバター)ロボットなのかって?
それは、病気などで外出困難な状態でも社会参加を可能にするための分身がそのロボット(OriHime)だから。パイロットとして勤める方々も多くが寝たきりなど外出困難な方々です。
初めてその記事を読んだときはとても衝撃的で。
「そうか、移動困難な人でも仕事を持ち社会参加できる未来を切り拓こうとしている人がいるのか」と。
その時からずっとそのカフェに行ってみたかったのですが、
先日日本へ帰省した際やっとそれが叶いました。
風邪の治りかけで、体は元気なのに声が掠れてうまく話せないみたいな時だったので、パイロットとお話しできるダイニングエリアではなく、カフェエリアのみを使用。
でもカフェエリアからもダイニングエリアの様子がよく見え、OriHimeを通じて働くパイロットさんたちの様子を拝見することができました。
とっても素敵なカフェでした。
次回はぜひ体調を万全にして、お喋りできるエリアを利用したいと思います。
カフェではグッズを購入することも可能で、OriHimeを開発しているオリィ研究所所長である吉藤健太朗(吉藤オリィ)さんの著書も置いてありました。
今回はそこで購入した本の1冊を紹介します。
『孤独は消せる。』吉藤健太朗 著(2017年発行)
Dawnカフェを知ったのと同じような時期だったと思うのですが、
コロナ禍について車椅子ユーザーの方が書いた投稿を目にしたのです。
その方が書かれていたことをかなり要約すると(ちなみに確かUK在住の方でした)、
「それまでは、車椅子では参加困難な対面イベントが多く、グループでのお出かけでは他の人に遠慮したりすることもあった。が、コロナ禍ではイベントごとや集まりがほぼ全てオンライン上で行われるようになったため、2020年は車椅子生活になって以降、一番社交的な年だった。
そして多くの人が『早く普通の生活に戻りたい』というが、その『普通の生活』は今まで体が不自由な人たちが切り捨てられてきた世界でもある。」
というような内容でした。
人生で頭を殴られたような感覚を覚えるほどの衝撃に出会う機会はそうそうないですが、私にとってはこれがその一つでした。
同時に今までそのことに考えが及ばなかった自分をとても恥ずかしいとも思いました。
それ以降、アクセシビリティ(Accessibility)というものについて以前より考えるようになりました。
例えば対面での講座などは耳が不自由な人が受けられるものであっただろうか?(対して、オンラインイベントならその場で字幕を表示できる機能を持ったサービスが多い。)
そもそも移動が困難な人というのは体が不自由な人だけではなく、
移動手段を持たない人とか、小さな子がいて家を空けることが難しい人にも当てはめることができます。
また上とは別の方の意見で、
「今まで車椅子ユーザーの生徒たちが、どんなにオンラインの大学講座の導入を願っても実現することがなかったのに、コロナ禍になった途端全ての授業がオンラインになった。」
というようなとても複雑な心境を綴った投稿も読みました。
そんな経緯から、アクセシビリティとそれを実現するための社会というトピックにとても興味を持っています。
だって、いつ誰がどうなるかなんてわからない。
明日自分の目が見えなくなったら?耳が聞こえなくなったら?体を動かすことができなくなったら?自分はどうやって生きていく?
そんなことを考えるととても不安になります。
だからこそ、アクセシブル(accessible)な社会にするために自分が貢献できることがあるならしたい、と思い始めています。
そんな時だったから、吉藤さんの本は本当に興味深く読みました。
吉藤さんの頭脳は私からすると「まさに天才」。
でも当然ながらそれだけではなく、それを上回る努力の方だと思いました。
すっごくいろんなことに対して試行錯誤を重ねている。
ロボットの研究だけじゃなく、そこへ行き着くまでに必要であった、人とのコミュニケーションから何から、本当に色々と創意工夫してらっしゃる方だなぁと感じました。
自分の経験から一つ一つを積み重ね、
その途中で試行錯誤をし壁にぶち当たったり、ショックを受けたりしながら
それでも前進を続けていく。
吉藤さんはロボットの研究者ではありますが、ロボット開発が最終ゴールではないそうです。
本の題名通り、孤独をなくすことを目標とされています。
外出困難な状態であっても社会と関わりを持てること。
ベッドから動けずとも、人に何かをできる自由を持てること。
この本を読んで、カフェでの分身ロボット運用はあくまでもOriHimeの数多くある使い道の一つなのだなぁと知りました。
もちろんとても画期的で素晴らしくて、これからどんどん普及していって欲しい働き方です。
と同時に、これがゴールではなく今後もっと切り拓かれていくであろう可能性を考えるととてつもなくワクワクします。
ものすごい熱量を持って大きな目標に向き合うだけでもすごいですが、
それをフワッとした夢で終わらせることなく
着実に社会で運用できる形へと持っていけるというのが二重ですごい。
本の中で、「オリィ」や「OriHime」の語源が知れたのも個人的にはとても良かったです。
普段ノンフィクションはあまり選ばないのですが、この一冊はとても興味深く読みました。
吉藤さんの生い立ちや人となり、OriHimeを開発するようになるまでのきっかけや道のり。
また生きるとは何か、ということも。
最初から最後までとても心を動かされ、自分自身がどう生きたいかというインスピレーションをもらえるような気がしました。
読んでいる間中ずっと希望に満ちた気持ちでいられたし、吉藤さんとそのチームメンバーのような方々が切り開く未来が楽しみになりました。
Apr 18, 2024