読書感想:『The Invisible Life of Addie LaRue』

相も変わらず、休日はドラゴンズドグマ2に費やしておりますが、読書やお裁縫もちまちまと進めています。(でもお裁縫のブログは全く追いついていません…去年作ってまだ載せてないものがたくさんある〜)

つい先日読み終わったのは、

『The Invisible Life of Addie LaRue』 V. E. Schwab 作(2020年発行)

 
 

V. E. Schwabさん(ファーストネームはヴィクトリアさん)は知名度の高いファンタジー作家さん。

特にShades of Magicシリーズが有名だと思います。

V. E. Schwabさんの作品はこれまで読んだことがなかったので、シリーズものに手をつける前に、まずは1冊で完結する作品を選びました。

Booktok(TikTokの読書好き界隈)でも人気の作品のようです。

今回は、前半はほぼネタバレなし(公表されている範囲のあらすじ紹介はあります)、後半はネタバレあり、で感想を書いていこうと思います。


書店やオンラインで公式に発表されている範囲のあらすじは…

物語は1700年代初期のフランスのとある村から始まります。

小さな村で生まれ育った若い女性(アディ・ラルー)が窮地に立たされ、悪魔と契約をしてしまいます。

その契約とは永遠の時を生きられる代わりに、誰の記憶にも残されないというもの。

誰からも忘れられてしまう呪いを掛けられてなお、世界に足跡が残せるのか、そしてそのためにどこまでするのか…アディ・ラルーの世紀や大陸を超えた冒険が始まります。

300年の時を経て、なぜかアディのことを覚えていられる青年と偶然出会ったことで、全てが変わっていく。

というような感じ。

ジャンルはローファンタジー(Low Fantasy:現実世界や現実世界と繫がりのある世界を舞台とするファンタジー作品)。

公式のあらすじの中に「冒険(アドベンチャー)」という単語が出てくるのですが、よくある冒険譚とはまた一味違います。

どちらかといえばゆっくり静かに進んでいく作品だと思います。

それゆえ、「スローペース過ぎてダメだった」という意見もちらほら。

実は私も、スローな展開だなぁと感じたことが途中ありました。

でも最後まで読んでよかったです!私は好きな作品でした。

じっくり噛み締めて読みたい人に特に向いていると思います。

アディがこれまでに生きた300年という年月の長さを少しでも実感できるよう、あえて少しずつ進む感じに書かれているのかな、と私は思いました。

「まだ生きることを諦めたくはないが、こんなに長い間生きるのには疲れる」というようなアディの心理描写も出てきますし。

歴史や芸術にも触れられるのも面白かったです。

偉人出過ぎ?と若干思う節もありましたが、アディの人生を辿りながら、

「もしかしてこの雰囲気はフランス革命が近づいているのでは…」

みたいに史実が絡められていくのは興味深かったです。

V. E. Schwabさんはその美しい文章スタイル(文体)に定評があるようですが、今作を読んで「なるほど」と思いました。

私はまだまだ英語で書かれた作品に疎いのですが、そんな私でも、

美しいなぁ、洗練されているなぁ、繊細なだなぁ、

と感じることができる文章でした。

主人公であるアディは、正直私があまり共感できる人物ではありません。

私はそもそも不死や異次元級の長寿にはそそられないですし、この世界に名を残したい!みたいな野心もゼロ。

そしてアディはめちゃくちゃ気が強く、負けず嫌いでプライドも高い。

こう書くとネガティブなことばかりのように聞こえてしまうかもしれません。

でもその強さがなければ300年も独りで生きていくことはできませんから。

間違いなく、自分をしっかりと持った強く気高く賢い女性だと思います。

そして美人で、きっと何か特別なオーラが出てるような人。

自分とは全然違うタイプの人間だからこそ、アディの気持ちをたくさん想像しながら読み進めました。

共感できない主人公でもイライラせずに読めるのって結構すごいことだと思いませんか?(私はイライラもしくはヤキモキしてしまいがち。)きっとひとえに作家さんの力量だと思います。

自分がいた証を刻みつけることとは。

世界に名を残すとは。

そして誰かに自分を覚えてもらう、知ってもらうことの意味とは。

そんなことを考えさせられる作品でした。


ここから先、ネタバレあり。(エンディングに関するネタバレもあります。)

総じてとても楽しめた作品だし、文体が美しくてとても心地よく読めた作品でした。

だけど「もうちょっとこうだったら」というような点も少しだけ。

視界から消えた瞬間に忘れ去られてしまう呪いを持つアディ。

さらに「自分が存在した証」を残すこともできません。

名前も名乗れず、人の記憶にも残れず、文章や絵を描くこともできず、物を壊すこともできず、かといって物を長期的に所有することもできず。

定職にも就けないし、定住もできません。

仕方なく物を盗んだり、どこかに忍び込んだりして生きています(もうそれを考えただけで私ならすぐに諦めてしまいそうなほど、辛い…)

だから普通の人間関係を築くこともできなくて、作品に出てくる他の人物との関係はほぼ一夜限りのロマンス的なもの。

それなら朝になったら「飲み過ぎて覚えてないみたい」でどうにか乗り切れるし、寝る場所も確保できるし。(お互い好意を持った相手をアディも選んでいます。)

唯一そうではなかったエピソードって、上流階級のサロンに潜り込むために手を借りる貴婦人くらい?

恋愛ならその時の勢いで、が可能だけれど、友情となると長期的な付き合いが必要になるからかなぁ。

それでも、アディが友達になりたいと思った相手や、恋愛感情抜きに心地よいと思える相手や尊敬できる相手がいるはず。

そういう角度からのアディの人となりも知りたかったな。

それもあって、私が一番好きな登場人物はBeaでした。(ビー、という発音でいいのかな?Beatriceの略です。)

アディのことを唯一覚えていられる青年ヘンリーの友人であるビー。

直接的なアディとの関わりは少ないですが、最後の方でビーちゃんがとある重要なことをしてくれていた事が読者に明らかになります。

些細な一文なのでしっかり読んでないと見過ごしてしまうかもしれないのですが、その部分をしっかり拾えてよかった!

作中アディは300歳超え(見た目は契約を交わした頃から変わらない20代)、

恋愛相手のヘンリーは28、9歳なんです。

ヴァンパイアものとかでもよくある、不老不死×普通の人間(ものすごい年齢差)という設定。

身体は20代ですし老けることもなく体力もそのままなので見た目は問題ないとして、精神面ではどうなのでしょう?こういう不老不死の場合って精神年齢も割とそのままなのでしょうか?

例えば、アディの場合なら。

300年生き、たくさんの物を見て、たくさんの歴史を経験し、視野も広く見聞もあるんです。例えるなら横に広がる人生経験が豊富なのかな、と。

対して、人生の階段を登っていくような縦の人生経験はあまりないのでは?

多くの人は進学し就職し、いつの間にか部下を持つようになったり。

結婚したり子育てを経験したり。

老いていく親を側で見たり、自分の老後のことや終活を考えるようになったり。

そういう人生のステップを上がっていくことで大人になり、心身ともに老いてもいくと思うんです。

だけどアディはそういった経験を積む事ができない。

視野は広く賢くとも、どこか時(精神年齢)が止まったままな部分もあるのかなぁ、と。

身体的にも「この歳で無理すると後が怖いから気をつけよう」みたいな感覚も持てないでしょうしね。

じゃないと300歳が28歳を恋愛相手として好きになるのって不自然ですものね。

そういった意味でも、この本のエンディングは良かったと思います。

ルーク(アディが契約した悪魔)とアディはああいう感じで今後も永久的に腐れ縁的な関係なのではないかと私は思いました。

Jun 10, 2024

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